自治体DX=自治体におけるデジタルトランスフォーメーションは、少子高齢化が進む社会の中で、行政の効率化を行う必要性から推進されています。
推進する過程においては、すでに限られたデジタル人材と資源のなかで行うことが要求されていることから、各自治体単独でリードしていくのは難しいかと思います。
そこで、広く地方自治体のガイドラインとして総務省により自治体DX推進手順書がまとめられています。
この記事では、総務省がまとめた自治体DX推進手順書の概要を解説し、どのようなビジョンと手順で進められようとしているのかを紹介します。
自治体DX推進全体手順書とは?その概要は?
自治体DX推進手順書とは、総務省が2021年7月に発表した文書で、2020年に総務省から発表された自治体DX推進計画を踏まえて、各自治体が直実にDXに取り組めるよう標準的な手順等が示されています。
自治体DX推進手順書は、自治体DX推進全体手順書、自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書、自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書、参考事例集の4つの文書からなります。
自治体DX推進全体手順書は、自治体DXを推進するにあたって想定される一連の手順を4つのステップ(DXの認識共有・機運醸成、全体方針の決定、推進体制の整備、DXの取組みの実行)で示されています。
推進体制の整備の中では、デジタル人材の確保・育成も目標とされました。
特色としては、システムを導入することや具体的にどんなことが効率化できるかを論じる、というよりも自治体DXのプロセス全体を俯瞰する内容になっています。
各ステップを概観すると、次の通りです。
ステップ0 DXの認識共有・機運醸成
自治体DXが必要とされるようになったのは、今後少子高齢化が進む中、より少ない職員数で行政サービスを提供しなければならない、との現状認識に基づくものです。
こうした現状認識を土台に制定された、「デジタル社会形成基本法」に基づいて、デジタル社会の形成に関する施策を策定・実施する責務が各自治体にはあるとされています。
そこで、ステップ0は、基本思想・理想とする自治体DXの姿を共有するため前提として、準備段階・問題意識の共有のためのステップとなります。
そこでは、自治体の首長等によるデジタル化を推進する強力なリーダーシップと、サービスを中心に考える「サービスデザイン思考」が求められているとされます。
ステップ1 全体方針の決定
自治体DXを進めるうえでは、各地域での「全体方針」を決定しないと進められません。進め方は地域の実情を反映する必要があります。
ここでは自治体DXが各自治体でどういうものであるべきかのビジョンを示し、大まかなレベルで全体の工程表を策定し広く共有することが求められます。
ステップ2 推進体制の整備
自治体DXを推進するのは各地域の方々です。またそれに見合った組織も必要であり、例えば新設のDX推進部門を置くなどの組織整備が考えられます。
「DX司令塔」として、DX推進担当部門を設置すること、そして各部門との緊密な連携ができるようにすることを組織整備の面で求められています。
また推進手順書では、推進体制の整備においては外部人材の活用も進めるべきとされています。
ステップ3 DXの取組みの実行
自治体DXの取り組みは、地域の実情にあわせて具体的に設定されるものです。
取組みの内容は、現場の行政事務を行う市区町村では、事務効率化に直接役立てるため、紙による業務からデジタル化した事例・RPAの対象業務の拡大・窓口でのAI活用など、住民サービスに役立つ施策が多くなります。
一方、都道府県レベルでは、DX人材養成・集約のためのプロジェクト推進などの地域社会のデザインにかかわるものが多く見られています。
先進地域では、プロジェクトと内部の事務のデジタル化・標準化などを車の両輪としてすでにDX施策が進められているのです。
このように、より住民の暮らしに密接な手続きを行う窓口である市区町村と、よりハイレベルの施策を行う都道府県の違いはあります。
しかし、いずれにしても取組内容に応じたPDCAサイクルを回し、効果を測定することが求められているのです。
さらに、より柔軟に変化に対応できるようにするため、「Observe(観察、情報収集)」、「Orient(状況、方向性判断)」、「Decide(意思決定)」、「Act(行動、実行)」=OODAループによる修正・調整・新規の取り組みに向けた意思決定を速やかにすることが期待されています。
OODAループの紹介は、自治体DXの先進例などをもとに、あるべき意思決定のあり方を理論化したものとされ、推進手順書での特色の一つとなっています。
事例集にみる自治体DX推進全体手順書の各ステップ
自治体DXは各自治体ですでに行っている取り組みですが、それぞれの自治体で進行状況が異なり、また強み・弱みも異なります。
今後自治体DXを進めていく上での意識の醸成・啓発あるいは、課題に悩んだとき、解決のヒントになるよう総務省ではDXの取り組み事例を公開しています。(世の中の先進事例として紹介しているため、当社が直接関与していない事例を含んでいます)
自治体DX推進全体手順書は、性質上少し抽象的であるため、各ステップについて具体的にどういう取り組みが行われているかを「事例集」で紹介しているのです。
例えば、ステップ0では、以下のような事例が取り上げられています。
- 市のDX憲章を内外の関係者と一緒に制定した事例
- 市の地域おこし協力隊、事業者、学生など地域の幅広い関係者からの意見を収集し、ワークショップによりDXの機運を醸成した例
ステップ3になると、よりデジタル化・オンライン化の手順・プロセスが見える事例を取り上げています。
共通の申請システムをあらためて活用して、行政手続きのオンライン化を年間約100手続にわたり進めた事例・学童保育関係の基本的な手続を全てオンライン化した事例など、従来の業務をデジタル化・効率化する具体的なプロセスが見える事例を紹介しています。
自治体情報システムの標準化・共通化では、何が目標とされているのか?
自治体DX推進全体手順書に対して、同じく総務省が発表した自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書では、もう少し具体的な目標が見えてきます。
自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書の意義は、コスト削減・ベンダロックインの解消、行政サービス・住民の利便性の向上、行政運営の効率化の3つとあげられており、各自治体が国の推進するデジタル・ガバメントと緊密に連携して行政事務を進められることが求められています。
「デジタル・ガバメント実行計画」では、情報システムの共通的な基盤・機能を提供する複数のクラウドサービス(IaaS、PaaS、SaaS)の利用環境を備えたガバメントクラウドの構築が示されており、ガバメントクラウドは、デジタル化の共通基盤として、各自治体でも標準的に利用されることが求められています。
ガバメントクラウドの環境上に構築された「標準準拠システム」があり、これを2025年までに総務省主導で、各自治体が利用できる状態にすることが目指されています。
各自治体がシステムの仕様・データのフォーマットを共通化することにより、情報システムの差異の調整をなくし、地方と国の間の行政事務の二重化・非効率化を避けられると同時に、マイナンバーデータ等の住民データも相互に利用できる裏付けとなるのがシステムの標準化です。
個人情報保護のために双方の利用範囲を確定するなどの課題はありますが、システムの標準化により大きく効率化されることが期待できます。
自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書では、標準準拠システムに各自治体のシステムを移行させるための工程や、手順・モデルスケジュール・さらに財政支援策などが具体的に書かれています。
自治体の行政手続のオンライン化では何が実現されようとしているのか?
自治体の行政手続きのオンライン化に係る手順書では、マイナンバーの活用を中心として行政手続きをどのようにオンライン化するか、その手順が具体的に書かれています。
システム導入・更新についての手順書である自治体情報システムの標準化・共通化に係る推進手順書よりも、住民サービスのオペレーションにより踏み込んだ内容です。
オンライン化を進めるに当たり、ターゲットとなる業務は何か、どんな業務をオンライン化して行こうとしているのかこの手順書ではよく見えるようになっています。
申請・交付手続きを中心に多数の業務が具体的に挙げられ、説明されているのです。
まとめ
記事の冒頭でもご紹介した通り、自治体DXは、少子高齢化が進む社会の中で行政の効率化を行う必要性から推進されているものです。
その手順を示すのがここでご紹介した総務省が公表している推進手順書です。
自治体DXは今後、長期間にわたり行われる取り組みですが、手順書では自治体DX推進計画およびデジタル・ガバメント構想に合わせ、2025年までに集中的に行動することが求められています。
この記事でお伝えした推進手順書は、近い将来、短期間のうちに自治体と社会がよりデジタル化され、利便性が向上し地方行政そのものの姿も変わること、そしてその姿を予告する文書でもあるといえるでしょう。
【関連記事】合わせて読みたい
自治体DXの事例を紹介!課題に対する自治体の取り組みとは
自治体BPRとは?職員の業務改善に成功した事例を紹介【2022年度最新】