電子契約と書面での契約の違いを比較する
法律上、契約は口頭でも有効となりますが、後々のトラブルを避けるために契約した内容を記した書面を契約書といいます。この書面を電子データ上で効率よくやり取りできるものが電子契約です。
電子契約は法律上有効か?
法律上有効とは裁判での証拠能力があるということです。紙に印鑑を押した書面の契約と比較して、昔の電子文書はデータの改ざんが容易だったため、電子契約は法律上の証拠能力が弱いとされてきました。
しかし、2000年成立の電子署名法により、今では紙の契約書同様、電子契約の証拠能力が認められています。
電子契約のメリット
書面の契約を電子契約に変えるメリットは、「早い」「安い」「安全」「すぐ探せる」です。ここではこの4つのメリットを順に詳しくみていきます。
早い
押印や送付などの工数が少なく、契約手続きにかかっていた時間と手間が大幅に減らせるメリットがあります。業務の効率化はいちばん大きなメリットといえます。
安い
コストが大幅に削減できるのもメリットです。印刷代、製本テープなどの文具代、印紙税、郵送費、保管コスト、事務担当者の人件費、これらが全て不要になります。特に契約書の数が多い業種にはメリットが大きいといえるでしょう。
安全
コンプライアンス強化も大きなメリットです。実は電子契約は書面の契約よりも安全です。
紙での契約よりも改ざん防止に優れていること
電子署名や電子証明書のデジタルデータの改ざんは事実上はほぼ不可能という大きなメリットがあります。
閲覧権限の制限によって一元管理できること
権限の制限とデータの一元管理により、紙よりも簡単にリスクマネジメントできるメリットもあります。
作業の抜け漏れを確実に防げること
契約手続きのプロセスを管理できるので、ヒューマンエラーを確実に防げることもリスクマネジメント上の大きなメリットです。
自社サーバーよりもセキュリティ度が高いこと
専用回線を用いる等、外部攻撃に対して、取り得る限り最新の対策が施されており、一般に自社サーバーでのデータ保管よりもセキュリティに優れているメリットもあります。
また権限ごとのアクセス制御や、操作ログの取得により「対象文書に社内の誰がいつどのような操作を行ったか」が証拠として記録されるのも特筆すべきポイントです。
すぐ探せる
検索・閲覧・共有が簡単にできること
倉庫等に保管されたファイルから目的の書類を見つける時間とコストが要らないこともメリットです。データであれば、検索して他のメンバーにその内容を共有することも簡単にでき、業務効率が向上します。
電子契約のデメリット
電子契約にはメリットも多いですがデメリットもあります。以下に主なデメリットとリスクをあげます。
電子化が認められていない契約があること
まず、現状では書面の契約を全て廃止できないことがデメリットとしてあげられます。
宅地建物取引業法、マンション管理業法については一部で電子化の実証実験が行われている段階ですが、土地建物の売買に関する契約や労働者派遣に関する契約など、契約文書では電子化がまだ認められず、書面での保存が必須とされているものもあります。
そのため、実務では電子契約と書面での契約が併存し、契約業務に混乱が起きるリスクが考えられます。導入予定の電子契約システムが書面の契約との併用にどう対応しているかを検討しておきましょう。
取引先の理解を得られるか
電子契約の導入には、社内の合意を得るだけではなく、取引先の理解も必要となってきます。
多くの電子契約サービスでは取引先は無料で契約を締結できるようになっていますが、なかには取引先にも同じサービスへの登録が必要となったり、受信時に費用が発生したりする等、事務的金銭的な費用負担が生じるデメリットも起こりえます。
電子契約の導入が取引先にもメリットをもたらすことをいかに提示できるかが鍵になるでしょう。
申請者の同意を得られるか
電子署名を行うにはあらかじめ電子証明書を取得しなければなりません。
法人としての契約に添付する電子証明書の取得であっても、申請者個人の情報提示が必要になるデメリットもあります。
公的な身分証明書の取得並みの個人情報が必要ですので、申請者となる従業員個人の同意を得るためにも、社内説明会など時間をかけた合意形成が必要でしょう。
なお、契約の重要度によっては、電子署名が不要という判断もあり得ます。電子契約ベンダー独自の本人確認・認証方法でのサービスを利用すれば本人確認が簡素化できるメリットがあります。
どの契約に電子署名を求めるのか、社内で統一した基準を作る必要があるでしょう。
短期的な事務量増大
電子契約システムに慣れるまでは紙での事務作業よりも時間がかかり混乱も生じる可能性があります。
関連する法律
電子契約の導入を検討するなら、今後の契約管理方針を決める判断材料の一つとして、法律上何が求められているかを把握しておくことが大切です。ここでは電子契約に関する主な法律である、電子署名法と電子帳簿保存法について説明します。
電子署名法
電子契約が紙での契約に置き換わるには、「文章の真正性」 (トラブル時の証拠能力があること) を証明する必要があります。
電子署名法で求められる基準を満たした電子署名と電子証明を行うことでこの法律の要件を満たせます。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法では、以下の4つの要件を満たすと紙の契約書と同等とみなされ、紙での保存が不要となります。
- マニュアルを備えていること
- 範囲指定や組み合わせでの検索ができること
- 納税する自治体で画面とプリンターを使って契約内容が確認できること
電子帳簿保存法の対象となる書類は、法人税や所得税の支払いに関係する国税関係の書類です。具体的には、売上や経費に関する契約書、発注書、領収書等になります。
電子契約システムを比較するポイント
ところで、どんな点に注意して電子契約サービスを選べばいいのでしょうか。主な比較ポイントを以下にあげます。
- · 提供されるサービスと料金体系が、自社にとって最もメリットが大きいシステムであるか
- 電子署名が必要な場合、電子証明書を発行した電子契約に対応しているか
- タイムスタンプを発行しているか(社内規程を整備するかタイムスタンプがなければ電子署名法第3条を満たすことができないため、国税関係の書類を紙で保存しなければ法律違反になってしまいます)
- 紙契約との併用にシステム上でどう対応しているか(電子契約でも書面での契約でも一元化して管理検索できるか)
- 取引先も同じ電子契約サービスへの登録が必要か、取引先に費用負担等のデメリットが生じるか
- 取引先や社内への電子契約導入についての説明資料を用意してくれているか
- サーバーのセキュリティ対策など安全面は社内のコンプライアンスを満たしているか
導入までの手順
このようにメリットの大きい電子契約ですが、実際に導入するには何から始めたらいいのでしょうか。ここでは、導入までの手順をみていきます。
電子契約の導入は契約管理体制の見直しとも言えます。業務効率化の一環として、自社にとっての導入メリットと目指す状態を明確にしてから動き始めましょう。
小さく試す
まずは一部の契約だけを電子化します。対象には関係会社との契約など訴訟リスクの少ないものを選びましょう。限定することで早く導入、実装できるメリットがあります。例えば「今年度の印紙税を対前年度比○%削減する」等、確かめたい効果をはっきりさせておきます。
意思決定プロセスの可視化
決裁者の権限、閲覧権限など、各段階でのルール整理が必要です。書面での契約が残る場合は、電子契約の締結プロセスとの整合性を取る必要があります。
契約書の保存方法方針決定
書面の契約は紙だけで保存するのか、PDF化もして電子契約システム上で一元管理するのか、保存方針を検討します。
導入費用の見積
契約書の種類、内容、件数と今後の発生数から費用を見積もります。ベンダーによって契約数と料金の設定基準が違います。また、内部の決裁システムなどを変更する場合はその費用見積も必要です。
実務面での課題のリストアップ
事務担当者に、電子証明書、電子署名、タイムスタンプの使い勝手や実務面でのメリットとデメリットを報告してもらい、本格導入時の業務フロー見直しやマニュアル作成の参考とします。導入予定の電子契約システムでは対応できないデメリットや見落としていたメリットがわかれば、書面の契約と電子契約を選別する作業にも活かせます。
社内セキュリティとの調整
情報部門と連携し、本格導入に向けてセキュリティ面でクリアすべき課題があれば、解決策の検討をお願いしておきます。
法律面での対応
法務面で専門家対応が必要であれば、弁護士、社内規程変更であれば社労士に相談します。
社内外への周知
社内説明会を開催する場合、先に法務部門や管理部門への説明を行います。取引先への説明は部署間の連携が必要ですので、社内周知を丁寧に行うことが大切です。
まとめ:メリットと導入のポイント
- 電子契約と書面での契約の違いは書面の保存か、データで保存するかによる。法律上はどちらでも有効。
- 電子契約のメリットは、早い、安い、安全、すぐ探せるの4つ
- 電子契約の主なデメリットは、紙で保存しなければならない契約があること、取引先の理解を得る必要があること、短期的には事務量が増えること
- 電子契約に関連する法律には電子署名法と電子帳簿保存法がある
- 電子契約システムの比較ポイントは、自社にあったサービスか、紙での契約との併用に対応しているか、取引先に負担があるか、安全面はどうか
- 電子契約導入とは契約管理体制の見直しと再整備である