世界の先進国ではすでにIT化が進み、さまざまな行政サービスがネットを通して日常的に行われています。
一例をあげるとバルト三国の一つであるエストニアでは、窓口業務の99%がネットでおこなわれ、行政事務の効率化も進んでいるのです。
日本における政府・地方自治体でのデジタル化に目を向けてみると、かなり遅れていると言わざるを得ません。
そのような状況下で2020年9月には、菅前内閣でようやくデジタル庁設置が計画されたのは大きなポイントといえるでしょう。
国全体としてはもちろん、行政もアナログ化の脱却に向けて、自治体DXの推進に舵を切っていく計画です。
この記事では、日本における自治体DXの推進がこれまで遅れていた経緯と、今後各地方自治体がデジタル化を推し進めていく上での課題やその解決事例についてポイントを踏まえながら解説していきます。
日本における自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)とその推進・経緯
日本では最近ようやく耳にする機会が増えてきた「自治体DX」というワード。世界ではデジタル化が進み、DXという言葉がもてはやされる時期は早々に過ぎました。
自治体DXの「DX」とは、Digital Transformationの略称であり、データとデジタル技術を組み合わせて新たなビジネスモデルに変革していくことを指します。
日本におけるデジタル化の波は今や民間に限らず、行政においても必要に迫られているといえます。
諸外国に比べ遅れた行政サービスや業務の効率化に関して、各方面からの改善要請は尽きることがありません。デジタル庁の発足などはその促進のための重要なポイントとして関連付けられているといえるでしょう。
この行政、特に地方自治体に対するデジタル化の要請が、自治体DXと言われているものなのです。
デジタル化の波は政府、地方自治体、そして私たち個人の身近なところにも垣間見ることができます。
私たちがよく目にするものにマイナンバーカードの発行とそれに伴う運転免許証、健康保険証との連携などはその最たる例と言えます。
一方で個人目線で捉えると、このマイナンバーカードにおいては、新型コロナウイルスに対する支援金などの申請に際して使いづらさが目につき、早急な利便性の向上が求められているというのは共通の見解です。
これらの状況が、行政府や自治体のデジタル化手続きの遅れを如実に表しており、自治体DXの推進が求められている背景といえるでしょう。その経緯について見ていきます。
自治体DXの遅れの経緯と総務省の支援
このように、地方自治体における自治体DXは、政府のDXの遅れの経緯もあったため、なかなか進んでいませんでした。
一部の自治体では、住民票発行などの窓口サービスをネットで申請できるようにしたり、納税や公共料金をネットやクレジットカードで支払えるようにするところもあります。
しかし、全体としてみた場合にはそれほど進んでいるとは言い難いです。
これらの経緯に対して、一つの契機となったのが、管轄省庁となる総務省で2020年12月25日に閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」です。
この計画に基づいて、自治体DXの推進計画に関連したレポートが発表され、その推進を進めていくこととなります。
閣議決定においては、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」を掲げ、自治体DXの推進を目指すとされています。
引用元:総務省|自治体DXの推進
これを踏まえた上で、経済産業省では地方自治体に対して「デジタル基盤改革支援補助金」を新設します。
今後個人や企業のニーズに合ったサービスを前提としたデジタル改革が行われていくと考えられています。
自治体DXの遅れの原因となった経緯
このように、国を挙げて行政のデジタル化に取り組んでいく計画の中で、2020年初頭から新型コロナウイルスが世界的に感染拡大したのは大きな打撃でした。
日本国内においてもその影響は強く、地方自治体はその対応に追われることになってしまった経緯があります。
2020年9月末に発足した菅内閣は行政のデジタル化を重要課題に掲げ、2021年5月にはデジタル庁創設を掲げました。
しかし、ご存じのように新型コロナウイルスのパンデミックによって、政府は数次の緊急事態宣言を出さざるを得なくなってしまいました。
そのため地方自治体はその対応に追われてしまい、なかなかデジタル化の推進に手が回らないところも多く、自治体DXの推進が遅れているのが現状の経緯です。
自治体DXの今後の進展への期待
このように自治体DXの推進はこれまでやや遅れ気味と言えます。
一方で新型コロナウイルスの感染拡大はようやくピークアウトが近づいていると捉える識者も出てきました。
ようやく地方自治体では自治体DXの標準化推進に向けて進み始める可能性が高くなっています。
課題と解決策のポイント
自治体DXをスムーズに推進していくためには既に明らかになっている課題を解決していく必要があります。
総務省では、自治体のデジタル化を推進していくには、以下3つの段階が必要であるとされています。
- 大量の情報量を処理するインフラ整備
- 各システム間のオンライン情報共有
- 共有した情報を最大限に生かせるセキュリティを完備したシステム構築の計画
そして、これらの段階における課題としては、情報連携における基盤の課題、行政の内部業務に関するデジタル化の課題、推進組織自体の課題などが挙げられるでしょう。
具体的には、自治体の窓口業務の完全デジタル化により、従来のように住民を窓口に長時間並ばせることなく、家や外出先からパソコンやスマートフォンによってオンラインでの申請・書類発行を可能にすることが求められます。
さらに、自治体の各部署にある情報を共有したり、国の他組織などとの情報の共有をすることによっていつでも最新の情報を共有することが可能になり、それに基づく情報発信が求められるでしょう。
現在の行政の内部業務では手作業の部分も多く、それらをデジタル化することによって効率化・省力化も図れます。
そして自治体DXを推進していく内部組織に、従来の業務に慣れたメンバーだけでなく新しい視点を持った外部スタッフなどを参加させることでデジタル化が形骸化しないようにする体制も不可欠です。
現代の日本は、少子高齢化社会の影響を受けて就業者数全体が減少しており、企業だけでなく自治体職員においても今後効率化により一人当たりの作業可能量を引き上げていくことが必要になります。
今後、自治体の業務を維持しながら、さらに住民の要望に応えていくためには自治体DX推進の課題を解決していくことが必要になるのです。
国内行政における自治体DXの先進事例・改革
新型コロナウイルスの感染拡大の中でも、自治体DXの推進に積極的に取り組んでいる自治体は見受けられます。
その事例を、総務省の「自治体DX推進手順書参考事例集」で発表されたものの中から見ていきましょう。
現代の少子高齢化社会の中で危惧されるのは、職員不足、税収不足によって住民サービスレベルが低下する事態です。
それらの事態に対し危機感を持ってデジタル化を推進しようとする地方自治体も出ています。
(世の中の先進事例として紹介しているため、当社が直接関与していない事例を含んでいます)
フィールドワークを通じたスマート人材育成の事例
ある県では、自治体DXを円滑に推進していくためには何より「人材」が必要ということで、有望職員の教育投資に注力しています。
2020年度には、県庁内で公募に応じた職員20名に対し、デジタル化を活用して現状の県の課題を解決するための育成教育を積極的に行っています。
さらに、最近その効果に注目が集まっているAIによるデータ活用や、DXのプロジェクトマネジメントなどの研修を行っています。
その結果、県内事業者のAIを生かしたスマート漁業や生産者のスマート農業という、現場における成果や課題調査を実施し、県内の各市や町で実際に活用できるようにそれらの情報や知識の活用を進めているのです。
この県では、毎年、前年度の課題・反省を検討・吟味し、より高度なデジタル人材を育成していくとしています。
書かない窓口、ワンストップ窓口の実現の事例
また、市町村単位でみてみると、業務を効率化して申請書類などを書かない窓口、ワンストップでできる窓口の実現を目標に、市庁舎内の効率的な業務改革を行っている自治体も見受けられます。
根本的な組織構造・業務内容やそのフローを見直すことで、申請書などの作成のデジタル化を実現しているのです。
来庁者は申請書に署名をするだけで済み、本人も職員も煩雑な手間や作業が軽減されると評判です。
さらに住民移動窓口にすべての情報を集約・連携することにより、ワンストップ窓口を実現して来庁者はスムーズに申請等ができるようになっています。
自治体DXの動きはこれから活発化
地方自治体の中には、デジタル化を推進して地域住民へのサービス向上を行うとともに、自らの業務そのものの効率化を図っている例が頻出しています。
まだまだこれらの事例は一部に限られていますが、今後このような自治体DXを目指した動きは多くなっていくでしょう。
上記で紹介した事例からもおわかり頂けるように、自治体DXを推進するためには「デジタル人材の確保」が一番の課題と言えます。
また先の自治体では窓口業務の簡素化と自治体職員の業務簡素化を追及しており、将来的には窓口そのものも必要がなくなるかもしれません。
自治体DXのポイントは「テレワーク」
自治体DXを進めるにはさまざまな課題があります。その中で、一つのヒントとなるのが「テレワーク」でしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大においても求められたテレワークは、民間だけではなく自治体DXにおいてもカギになってきます。
少子高齢化が加速していること、更にに今回の新型コロナウイルスの感染拡大などで職員自身が罹患するケースも少なくなく、それによって地方自治体においても人員確保が難しい局面が生じています。
そのような事態において、職員の自由な働き方や自宅でも業務が可能なようにできるのがテレワークという概念です。今後、自治体の業務効率化の中では避けては通れないものとなるでしょう。
テレワーク化を進めれば、庁内のフロア面積の削減による事務所経費の削減、申請・報告のネット化による窓口業務の削減、自治体職員の通勤費などのコスト削減なども可能になってくるでしょう。
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記事まとめ:経緯を踏まえた上で課題解決を
現在進行中の少子高齢化社会では、地方自治体単位でも自治体DXによる業務改革が必要になってきます。
そのために、総務省では自治体DXを進めるための段階や課題を示し、支援をおこなっています。
自治体のデジタル化を推進していくには、既存の概念や組織、制度を抜本的に見直し、プロセスの段階から抜本的に変革をしていくBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の意識を徹底することが求められます。
今後、地方自治体はそれらの課題を解決して、今回紹介した事例のようにデジタル化を進め、少子高齢化の中でも行政サービスレベルを維持していく必要があるのです。