IT基本法が2000年に制定されて以降、地方自治体におけるデジタル化は着実に歩を進めてきました。
しかし2020年のコロナ禍では、自治体のシステムに残る数々の課題が浮き彫りとなり、自治体の業務に関する意義や有用性を見つめ直す大きなきっかけになったと言えます。
この記事では、現在の自治体システムや行政サービスが抱える課題と、課題解決を目指して策定された「自治体デジタル トランスフォーメーション(DX)推進計画」の意義・必要性を解説します。
すでに自治体DXの一環として取り組まれている事例も紹介しているので、これらを参考にして自治体DXの意義やあり方について再確認してみましょう。
現在の自治体・行政が抱える課題
特別定額給付金のオンライン申請を巡って自治体の窓口で混乱が生じるなど、コロナ禍は日本の自治体・行政におけるデジタル化の遅れを顕在化させるきっかけになったと言えます。
「デジタル敗戦」とも表現される現在の行政サービスですが、具体的にどのような点が課題となるのでしょうか。
まずは、現在の自治体・行政が抱える主な課題点について解説していきます。
根強いアナログ文化と人材不足
自治体DXの取り組みとして、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やRPA(Robotic Process Automation:事業プロセス自動化技術の一種)が広く活用されています。
しかし、2020年に総務省が公表した「AI・RPAの利用推進について」という資料では、AI・RPAの導入率が以下のように示されており、小規模な自治体ほどデジタル化の遅れが目立つ結果となりました。
都道府県 | 指定都市 | その他市区町村 | |
---|---|---|---|
AI導入率 | 68% | 50% | 8% |
RPA導入率 | 49% | 45% | 9% |
小規模な自治体においては、スマートフォンを利用した手続きへの対応なども進んでおらず、いまだに役所・役場に足を運んで紙中心の手続きを行うケースがほとんどです。
自治体内部のデジタル化も遅れており、根強く残るアナログ文化は自治体DXを阻害する要因となっています。
また自治体DXには、AIエンジニアやDXプランナーといった、特定分野におけるスペシャリスト人材も不可欠です。
現在の自治体では、技術職の人数が事務職と比較して圧倒的に少ないため、雇用面についても構造・意義から見直していく必要があると言えるでしょう。
利用者視点でない行政サービス
自治体は基本的に競争のない環境に置かれていることから、民間企業と比較して、住民のニーズを把握したり、それに応えたりするための努力が十分でないケースも少なくありません。
そのため、情報システムが利用者目線で構築されていないこと、また自治体によって情報システムがバラバラであることなど、コロナ禍をきっかけに様々な課題が浮き彫りとなりました。
政府はこうした課題の解決に向けて「利用者中心の行政サービスの徹底」を明言し、提供者目線になりがちであった行政の存在意義を利用者目線のものへ転換していくことを定めたのです。
そして利用者目線の行政サービスを目指すうえでは利用者のニーズを知ることが重要であり、情報収集の手段という意味でも、早急なシステムのデジタル化が求められています。
自治体DX推進計画の意義とは
新たなデジタル化の方針として、政府は2020年12月25日に「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」の発表および「デジタル・ガバメント実行計画」の改訂を行いました。
これを受けて、総務省は「自治体DX推進計画」を発布、自治体におけるデジタル化の意義や目的が示されました。
ここからは、国が定める自治体DXの意義と、すでに一定の成果を出している自治体DXの事例を紹介していきます。
総務省が定める自治体DX推進の意義
総務省が発布した「自治体DX推進計画」には、自治体DXの意義について以下のように記載されています。
政府において「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が決定され、目指すべきデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」が示された。
このビジョンの実現のためには、住民に身近な行政を担う自治体、とりわけ市区町村の役割は極めて重要である。自治体においては、まずは、
・自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、
・デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく
ことが求められる。引用元:自治体DX推進計画概要
つまり、国が掲げる“デジタル社会の実現”を果たすには、地域住民と密接な関係にある自治体のDX推進が不可欠であるということです。
自治体DXに向けた業務改革(BPR)の事例
自治体DXの意義・目的を理解し、実際に自治体・民間企業の業務効率化や住民の利便性向上といった成果を上げている取り組み事例をいくつか紹介します。
(世の中の先進事例として紹介しているため、当社が直接関与していない事例を含んでいます)
事例 | 概要 | 成果 |
---|---|---|
録画形式のデジタル面接導入 | 事前に収録した質問を応募者へ送付し、応募者は任意のタイミングで受験を行うという仕組みを導入。 | 日程調整の負担軽減・移動などに伴うコストの削減 |
出勤簿の廃止によるペーパーレス化・テレワーク促進 | ログイン・ログアウト情報を既存システムに連携させることで、出勤状況の一元管理を実現。 | 出退勤状況の正確な管理・紙の出勤簿の廃止によるペーパーレス化 |
ワンストップ窓口の実現 | 複数課にわたる手続きを1つの窓口に集約し、来庁者の移動を削減。また受付時のデジタルデータを活用し、証明交付など一部の業務のRPAを実施。 | 重複する本人確認や内容説明の手間を省略、RPAの利用によるバックヤードの負担軽減・申請書記入の簡略化 |
この他の事例については、総務省から公開されている「自治体DX推進書参考事例集【第1.0版】」をご参照ください。
自治体DXの意義と必要性まとめ
アナログ文化から脱却し、利用者視点のサービスとして行政が機能していくには、自治体のDXが不可欠です。
NECネッツエスアイでは、AI・RPAの導入やテレワーク推進を支援する様々なソリューション・サービスを提供しているので、DXやBPRの方法でお悩みの自治体様はぜひ一度ご相談ください。