自治体DXは、行政業務の変革の取り組みです。特に先進自治体の事例では、民間企業もモデルケースとできるような革新的取り組みが行われ、その視点から多くのことを学ぶことができます。
企業が行うDXと異なり、国からの情報や人の派遣・財政支援などもあり、環境的には恵まれているように見えます。
しかし、行政の業務は多くの住民に対するサービスであることから、業務の工夫・質の追及などの点で民間にはない難しさも伴います。
そこで、自治体DXの先進事例から、特に注目される事例を学ぶべき事例としてまとめました。民間企業の方にとっても、背景にある問題意識や課題についての共通点を見つけていただければ幸いです。
自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
2018年に経済産業省が公表したDXの定義は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。
自治体DXは、総務省の「自治体DX推進計画」(令和2年)によると、次のような目標を持った行政業務変革の取り組みです。
- 自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる
- デジタル技術や AI 等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービス の更なる向上に繋げていく
自治体DXは「自治体DX推進手順書」(令和3年)により各自治体が使えるガイダンスが公表されています。
このガイダンスの公表により、先進自治体以外の自治体でも、DXはより取り組みやすいものとなりました。
自治体DXによる業務変革が必要な理由
自治体DXによる業務変革が必要な理由のうち、最も大きいものは労働力人口の減少・高齢化社会による行政サービスへのニーズの増大があげられます。
少子高齢化が進んだ2040年頃には、地方公務員の職員数の山になっている団塊ジュニア世代が退職しており、公務員の数は減少します。一方、高齢者の割合は増加します。
少ない公務員で、多くの高齢者を支えるためには、自治体DXによる業務改革・効率化が必須と考えられます。
また、公務員の中にはIT専門人材も不足しており、DXの推進を行うIT人材も不足しています。
特に紙と窓口業務による非効率性を解消するための技術を導入・運用できる人材が不足することは、DXの推進も停滞させてしまいかねません。
さらに、自治体DXを必要とする背景には次のような要因もあります。
- 防災・防犯・危機管理のためにデジタル技術を使いたい
- 高齢者が利用しやすい行政サービスにしたい
- データ活用・先端IT技術を実行しやすい環境にして、過疎の町を魅力的なビジネス環境に変えたい
- コロナ禍のあとの新しい生活様式に対応しやすい自治体にしたい
- テレワークによる自治体職員の働き方改革を進めたい
自治体のデジタル化は、住基ネットの活用、大都市を中心とするRPAの活用やAIの活用など、総務省の「スマート自治体」構想に乗った業務改革に見られるように以前から取り組まれていたことです。
しかし、今までのデジタル化の取り組みと異なり、令和2年12月25日に発表された「自治体DX推進計画」は2025年度までという計画期間が設定されており、短期間に様々な取組が強力に推進されることが予定されています。
これは、急速に進行する労働力の減少に加え、近時はDXを必要とする理由がより増加していることに対応するためと考えられます。
先進自治体におけるDX推進事例を詳しく紹介
先進自治体といわれる自治体では、利用者の視点から業務を見直し、より良質で効率的な行政サービスを提供する自治体DXの取り組みが行われています。
業務・事業ごとに、どのような先進自治体における自治体DXの取り組みがあるのか、事例をご紹介します。
窓口業務の先進事例
市区町村レベルでの業務の代表的なものが窓口業務です。
窓口業務の先進的な取り組みとしては次のようなものがあります。
- オンライン化し、来庁しなくてもスマホや庁舎外に置かれた端末などで完結する
- 本人確認もスマホへの電子証明書の取り込みで簡素化している
- 窓口の業務について書類の記載や押印をなくし、待たせないようにするため、電子ペン・タブレットを使っている
- AIによる案内を活用、より親切な窓口にしている
窓口では長時間待つことや書類を書くことは特に高齢者や子供連れ・障害のある方にとって苦痛なことでしょう。これらを解消する取り組みを先進自治体では他の自治体に先んじて行っています。
また、親切であることと、効率化することはAIを活用すると両立できます。質と効率性はしばしば相反しますが、双方をデジタル技術で実現する事例も現れています。
金融機関のオンラインバンキングなどと比べると、まだまだオンライン業務・デジタル化が進んでいないのが自治体の現実です。
しかし、自治体DXの推進により、今後マイナンバーのさらなる活用や、オンライン業務の普及を強力に進めることが予定されているので、将来の窓口業務は今よりも相当に少なくなるでしょう。
また、自治体DXにより、窓口の業務から特に申請手続きなどの事務が少なくなることも見通しが出てきそうです。
自治体DXの中でもテレワークに関して先進的な結果を残している自治体では、窓口業務の人員も交代制にしてテレワークを推進できているとのことです。
さらに、窓口業務が少なくなる分、住民の困りごとに対してより時間をかけて取り組むことができる、といったことも考えられます。
住民に対する情報提供業務の先進事例
災害時や、農林水産業に関しての情報提供には、IoT技術が有効です。またこれらを支える、止まらない・非常時も使える通信網の整備も多くの自治体で課題となっているところです。
こうした情報提供のためにデジタル技術を活用している自治体DXの事例には次のような先進事例があります。
(世の中の先進事例として紹介しているため、当社が直接関与していない事例を含んでいます)
- 農林水産業情報・災害情報をIoT センサーで収集し、住民に提供
- 防災マップ・避難所マップ・消火栓情報・雪かき情報などを住民にインターネット経由で提供
センサー技術を利用すると、人の見張りがなくても、あるいは危険個所でも情報をとることができます。
人手ではリスクがある場所での24時間監視は現実的ではないですが、デジタルデータを取得するセンサーを利用すれば常時モニタリングも可能です。
AIを使い、チャットボットなどで24時間いつでも情報提供を自動化する取り組みをしている自治体もあります。
同じように、人がいなくてもデジタルデータでなら正確に情報を提供できるという発想から、お年寄り・子供の見守り事業や、健康増進のためにIoTセンサー技術を使ったサービスを提供している先進自治体もあります。
また、情報提供は、通信が命綱ですので、企業との協力によりダウンタイムがほぼない通信網を独自で整備している自治体も登場しています。
官民協力の先進事例
官民が協力する事業の中には、次のようなものがあります。
- 街の課題を解決するプラットフォームを運営し、困りごとの解決・街づくりに生かすプロジェクトに誰でも参加できる仕組みを作っている
- 地方自治体が持っているデータを企業に利用させ、新規ビジネスの創造に活かしてもらえるようにしている
官民協力が自治体DXの中でも重要なのは、自治体DXを通じて、外部人材との連携や外部との人材交流を進めることにより、IT人材を集めたり、過疎の町を変えることが可能と考えられるからです。
上記のような協力関係は自治体DXの中でも先進的なものであり、他の自治体の事例に影響を与えている事例でもあります。
学ぶべき視点
民間企業が自治体DXに学ぶべき視点として、第一にあげられるのは自治体DXが利用者の目線で、利用者のよりよい状態を目指して進められているということです。
少ない人数でも行政サービスを遂行できて、高齢者に対しても親しみやすくわかりやすいサービスを進めることは、時にリソース不足や技術面で高度であるなどの困難が伴います。
しかし、それを乗り越えると誰にとってもメリットのあるソリューションを提供できると考えられます。
自治体DX推進計画では「人にやさしいDX」「誰も取り残さないDX」を目指すとされていますが、配慮と工夫をDXを通じて追求することにより、高齢者だけでなく働く人にも負担の少ない業務にすることができる点に注目したいところです。
また、官民共同も自治体DXの中では人材戦略上の課題として、加えて街づくり戦略上の課題としても認識されています。
多様性ある人材を自治体DXに巻き込むことは、将来の自治体のサステナビリティにも有効です。
1つの課題に向き合うことから、さらに効果が多方面に出ることを狙うこと・課題と課題がどのようにつながっているかを考えることは、2025年度までという短い時間で自治体DXを進めるうえで強力な武器となります。
NECネッツエスアイは自治体DXサービスの導入・運用を支援します
NECネッツエスアイは、自治体DXサービスの導入をサポートし、必要なIT・ICTサービスをコーディネートし、課題のコンサルティングを行います。
民間・公共プロジェクト双方のノウハウを生かして、総合的にサポートします。
サポートの範囲は自治体DXを進めるうえでの補助業務や、タスク管理など、DXを進めやすくすることだけではありません。
サービスの導入と運用・課題解決の方法論の提示・プロジェクトの進め方についてコンサルティングを提供することなど、トータルで自治体DXを支えます。
先進自治体を例にDXを始めよう:記事まとめ
先進自治体での自治体DXは、ユーザー指向・視点や、1つの課題に対する打ち手が他の課題に対する打ち手につながるなど、民間企業でも生かせる経験を蓄積していることがわかります。
特に視点・関係者の巻き込み方には学ぶべきものが多いと考えられます。
DXに手詰まり感がある場合は、ぜひ先進自治体の例をモデルとして、DXを進めてみましょう。
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