2021年9月にデジタル庁が発足して以降、省庁や自治体におけるシステム統一化の動きが加速しています。
この記事では、自治体の業務システム標準化の概要と、標準化の目的・必要性などを解説。
現在の自治体が抱える課題や地方ベンダーへの影響などもまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。
デジタル庁が進める“自治体の業務システムの統一・標準化”とは
デジタル庁が策定している「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の政策分野の1つに、「デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及」という項目があります。
この項目には、マイナンバー制度の連携や電子署名の規定見直しといった取り組みとともに、自治体における基幹業務システムの標準化が含まれています。
まずは、基幹業務システムの標準化がどういったものなのか、デジタル庁が示す概要を基にチェックしていきましょう。
ガバメントクラウドの活用
業務システムの標準化とは、“ガバメントクラウド(Gov-Cloud)上に構築された標準化基準を満たすアプリケーションの中から、自治体ごとに適したものを選択できる環境を整備する”ことです。
ガバメントクラウドは政府共通の情報システム基盤・機能を提供するクラウドサービス(IaaS・PaaS・SaaS)の利用環境のことで、政府が示す要件を満たしたサービスだけが登録されます。
ガバメントクラウドを活用することで、システムの共同利用によるコスト削減やシステム切り替えに伴うデータ移行の簡易化、各自治体のセキュリティ水準の統一といったメリットが見込まれます。
標準化の要件作成
デジタル庁では、ガバメントクラウドの環境整備と合わせて、業務システムの標準化に対するデータ要件・連携要件・非機能要件などの作成・検討も行われています。
システム要件をまとめた仕様書はすでに総務省から公表されており、現在は各ベンダーにて標準準拠システムの開発が進められている状況です。
なお標準仕様書は今後も定期的に見直しを実施し、新しい機能の追加やデータ要件の更新などが行われていく予定となっています。
システム統一はなぜ必要?自治体が抱える課題
政府主導で進められている自治体の業務システムの標準化ですが、そもそもなぜ標準化が必要なのでしょうか。
続いて、現在の地方自治体が抱える課題と、システム標準化の具体的なスケジュールなどを見ていきましょう。
コロナ禍で浮き彫りになったデジタル化の遅れ
これまで全国の自治体では、基幹業務システムを個別にベンダー企業へ発注し、自治体ごとに独自の仕様で運用するという方法が一般的でした。
基幹業務システムの仕様は大半が法令で定められているものの、利便性向上などの観点から個別にカスタマイズを行うことが可能であるためです。
しかし、全国の自治体がバラバラのシステムを利用していることで、コロナ対策や窓口対応の場面で自治体間の格差が生まれてしまいました。
例えば、特別定額給付金のオンライン申請を受け付ける際に、政府と自治体との間でシステム連携がうまくできず、郵送での受け付けや目視での申請確認を余儀なくされた自治体が少なくなかったことなどが挙げられます。
またその他にも、自治体ごとに異なるシステムを運用するという現在の状況は、以下のような課題を生み出す原因となっています。
- 維持管理や制度改正時に改修において、地方公共団体は個別対応を余儀なくされ、負担が大きくなっている
- 情報システムの差異の調整が負担となり、クラウド導入による共同化が円滑に進んでいない
- 住民サービスを向上させるための取り組みを、迅速に全国へ普及させることが難しい など
そこで政府は、自治体の基幹業務システムの仕様を全国で統一し、仕様に沿ったシステムに移行するよう求める法律を施行する形で、本格的なシステム標準化に乗り出したのです。
今後のスケジュール
自治体の業務システムの統一・標準化については、2025年度末までの完了が目標となっています。
具体的には以下の3つのフェーズで手順が組まれており、先ほどもお伝えした通り、現在はベンダー企業での標準準拠システム開発が着々と進められている状況です。
計画立案フェーズ | ①推進体制の⽴ち上げ、②現⾏システムの概要調査、③標準仕様との⽐較分析、④移⾏計画作成 |
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システム選定フェーズ | ⑤ベンダーに対する情報提供依頼(RFI)資料の作成、⑥RFIの実施、⑦RFI結果分析及び移⾏計画の詳細化、⑧予算要求、⑨ベンダーへ提案依頼(RFP)⑩ベンダー選定・決定、⑪契約・詳細スケジュールの確定、⑫特定個⼈情報保護評価(PIA) |
移行フェーズ | ⑬システム移⾏時の設定、⑭データ移⾏、⑮テスト・研修、⑯次期情報システム環境構築・NW、⑰条例・規則等改正 |
自治体業務システムの統一・標準化が実現した際には、以下のようなメリットが期待されると言われています。
- 人的・財政的・システム的な負担を軽減できる
- オンライン申請などを全国に普及させるためのデジタル基盤が構築される など
一方で、システム移行の難度や移行に携わるIT人材の確保といった課題もあり、2025年度末までという限られた期間でのシステム移行に頭を悩ませている自治体は少なくありません。
各自治体では、早急にシステム移行に向けた準備やIT人材の育成を進める必要があると言えるでしょう。
システム統一による地方ベンダーへの影響
地方のベンダー企業においては、自治体ごとの要望に応えた独自仕様のシステム開発を行えることが強みの1つでしたが、今後は仕様書に準拠したシステムの開発が求められるようになります。
独自技術を搭載することで他社への乗り換えを難しくする“ベンダーロックイン”などができなくなるため、早急に従来の発想から転換していく必要があるでしょう。
まとめ
自治体の業務システムが統一・標準化されれば、これまでシステム運用や更新にかけていた費用を別のサービスなどにまわすことができ、地域活性化にも繋げられるようになります。
2025年度はすぐそこまで近づいてきているので、直前で慌てることがないよう、早い段階での移行計画・人材育成を進めていくようにしましょう。
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